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2回以上読んだ本を紹介します

ちょっとひと休みして気分転換に読めるような、何度読んでも新しい人生の一冊、一回読んだだけではわからず気になって再読した本、お守りのような大切な本など、折に触れて開く「2回以上読んだ本」を当読書会にお寄せいただきました。
本は随時更新していきますので、今後もどんどんお寄せください。(随時更新。twitterでお知らせします。)
ご参加いただいたことのある方でも、偶然このページをご覧いただいた方でももちろん大歓迎です!

この特別企画は、コロナウイルスの事情で次回の読書会開催が未定になったため、その間になにか楽しめないかと思いつき、みなさんに投稿をお願いして企画されました。
読書する時間のシェアにぜひご協力ください。

TITLE パラレル
AUTHOR 長嶋有
投稿者 ねぎとろさん
紹介者
より
ひとこと

「パラレル」と聞くと、知人が「あのひととはねじれの位置にあるからどうしたって交わらない」と言っていたことを思い出します。平行でもなく交叉もしない、ねじれの位置。交わらないけど横にいるパラレル。この本を読んでいると形容詞だったパラレルが頭の中でパラレるになって動詞としてスキーの板のように動きます。
古くからの友人、前の奥さん「元奥」、それぞれの会話や距離感の現実味。自分の世界と重なりそうになりながらさらさらと読むと、ところどころにある重量感のある言葉がズッシリとおなかのなかに残り、ときどき読み返したくなる本のひとつとなりました。

TITLE パリ左岸のピアノ工房
AUTHOR T.E. カーハート
投稿者 ダイオオハムさん
紹介者
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ひとこと

日常生活のそこあそこに漂う音楽を拾ったような話。個性的なピアノたち。風変りでわくわくする出会いや発見。
パリの片隅にある謎めいたピアノ工房から話は始まります。
自分のピアノに出会い、先生を探す。子供時代のピアノとのかかわり等、個性的な体験が綴られていきます。
ステレオタイプでなく、おしゃれで、そしてとっても羨ましい。
自分自身はピアノのレイトスターターですが、このお話に応援されている気がします。下手なピアノを思いっきり楽しく弾きたいと思えます。
本当は内緒にしておきたいようなテキストです。ピアノに縁がない人も楽しめると思います。

TITLE 魔の山
AUTHOR トーマス・マン
投稿者 参番館さん
紹介者
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ひとこと

今の状況にとても似ていると言える本です。主人公はハンブルクで船舶の技術者を目指す青年。軍人の卵で結核治療のため療養所に入っている従兄を見舞うためスイス・ダヴォスの山へやってきます。そこで自分も体調不良が見つかり、3週間の滞在のつもりは早1年、2年…と時が過ぎていきます。様々な国籍の人、思想、主義主張の人と接する主人公の精神的成長を描いた上下で1500ページを超える作品。まるでSNSで見かけるような様々な人が出てきます。一気に読む人要はありません。このサナトリウムの人々と同じく、のらりくらり、1か月が1日に感じるくらいの時の歪め方で楽しんでください。

TITLE 鍵の掛かった男
AUTHOR 有栖川有栖
投稿者 Yさん
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ひとこと

私にとって、有栖川有栖という作家は人生の全てを決定づけた作家というか、単なるミステリ作家以上の存在です。
★以下、ネタバレなしですが、知識なしで楽しみたい方は読まずに本書をお読みください!
(そして長いです。すみません)

ミステリにおいて、探偵と助手の関係はホームズとワトソン以来興味のつきない、議論のつきないテーマかと思います。
有栖川先生は2つのシリーズで魅力的な探偵と助手を創造していますが、たとえば江神という探偵のシリーズでは『双頭の悪魔』で、探偵的な謎解きと助手的な謎解きの両方の可能性を追求しています。
『双頭の悪魔』はクローズドサークルものなのですが、助手たちが探偵なしで謎解きをがんばらなきゃいけないのですね。
ただ、そこで、助手たちは「探偵が来るまでがんばる」のではなくて、助手たちならではのやり方で、ひとつひとつ謎を解いていくのです。
一方、探偵側では、また助手たちとは違った謎解きがあって、その対比が素晴らしい傑作です。

さて、もうひとつの探偵・助手シリーズが火村英生という探偵とアリスという助手のシリーズであり、この『鍵の掛かった男』もその中の一作です。
助手アリスと探偵火村の関係は、ワトソンとホームズ的というか、間違った推理をかましてホームズからつっこまれるワトソン、といういささか戯画的な要素が初期シリーズではある程度あったのですが、この『鍵の掛かった男』では、「初歩的なことだよワトソン君」的な関係性とは異なる、新しい探偵と助手像を描いています(これよりも前にもその傾向は現れつつあったのですが)。

端的に言うと、探偵が登場するまでがかなり長いのですね。
それまで、助手であるアリスが独自に捜査を進めるわけですが、その捜査は、「探偵が来るまでがんばる」タイプの捜査ではなくて、アリスではないとできない捜査なのです。
長年火村シリーズを追いかけているファンとしては、傑作と名高い『双頭の悪魔』と肩を並べる、とまでは言えないまでも、作家の新境地に心を震わせたのでした。

あと、これは関西出身者ならではの感想かもしれませんが、この話は大阪の中之島が舞台で、その土地を知る人間にとって、感慨のため息をつかざるをえないシーンがいくつもあり出てきます。
私は学生時代、中之島の美術館へよく通っていたので、中之島あたりをよく歩いていました。
今では京阪が延伸し、美術館へのアクセスも改善されましたが、当時は通行人のほとんどいない昼間に、孤独に、ただもくもくと歩いて美術館へ通っていました。

堂島川の川幅と黒黒とした暗さに圧倒されたこと、近代産業遺産の石造りの建造物に冷たく威圧されるような気がしたこと、阪神高速の橋脚の下を歩くときの心細さ……
自分が圧倒的に自由であり、自由の喜びは寂しさと一心同体なのだと、初めて知ったこと……

こんな当時のあれやこれがこの本を読んでいるあいだずっとこみあげて、読み続けるのが苦しいような、読み終えるのがもったいないような、胸をかきむしられるような思いをしました。

長々と述べましたが、この本は数ある有栖川作品の中でも、私にとって特別な一冊です。

TITLE ムーンライト・シャドウ
AUTHOR 吉本ばなな
紹介者
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ひとこと

大学以降、本を読み返すことがほとんどないのですが、この作品は2回読んでいます。
最初は購入したときに、2回目はある人に勧めるときに。
いわずとしれた超有名本『キッチン』に収録されている短編です。
吉本ばななとの出会いは随分遅くて、大学生の後半でしたし(吉本ばななブームはとうに終わっていた頃でした)、そのあとも特段好きな作家というわけではありません。
ただこの短編は、本当に忘れられない作品でした。
初めて読んだときから10年以上たって、本好きな人と仲良くなって、おすすめの小説を、と言われて思いついたのがこの作品でした。
そのときに読み返して、初読のときと同じように、いえ、それ以上に、胸に刺さったのを覚えています。
おすすめをした人とは二度と会うことはないのですが、そのときのことともに、忘れられない作品となっています。

TITLE テロルの決算
AUTHOR J.M.クッツェー
投稿者 キーホンさん
紹介者
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ひとこと

38年も前の本です。20代前半に読んで、20年後ぐらいに読み返しました。
私が小説を読まなくなった、きっかけの本だと思っています。ノンフィクションを読む習慣がなかったのに、この本を境に180度読書傾向が変わりました。最近こちらの読書会に参加するまで、小説を読むことがなくなりました。(芥川賞や直木賞で話題になったもの程度です)
コロナウィルスの影響でこうして本の紹介をすることになり、小説でなくともいいのかも、とこの本にしました。
今、30年近く小説を書き続けている同人誌で、ちょうど初めてのノンフィクションを書き上げたところです。
読むと書く、小説とノンフィクション、このベクトルの向きの不思議さを感じているところです。

TITLE 園芸家12カ月
AUTHOR カレル・チャペック
紹介者
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ひとこと

園芸愛好家にはよくわかる悩みや葛藤、ぼやきが、なさけなくおもしろく描かれていてるエッセイです。たくさん入っている挿絵がどれもかわいくてのんびりした気持ちになります。
園芸がよく分からなくても、何かのマニア心がある人には「他人事」と笑い飛ばせないような必死さに共感して読めると思います。
1929年頃に書かれたようですが、時代が違っても園芸愛好家は同じことを考えて同じことをやってるなあと思うとおかしいです。
解説によると、この作品が書かれた頃は「プロレタリア文学が圧倒的にこの国を支配していた」ということだそうで、チャペックは呑気でユーモアのあるものを書くことで眉間に皺の拠りまくった世間の空気に抵抗していたんでしょうね。そういうところもあっぱれです。

TITLE 鳴雪自叙伝
AUTHOR 内藤鳴雪
投稿者 いぬこさん
紹介者
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ひとこと

幕末から明治にかけての武士の自伝ですが、偉人伝ではありません。表紙に「おおらかで直載な語り口には独特のユーモアが漂い、明治幕末の士族の生活の様子など、著者ならではの貴重な見聞も多い」とあります。
著者はお菓子とマッサージが好きで、いつも船酔いに悩まされている人なのです。(ブランコや汽車の揺れもダメ)
「峠の茶屋では力餅というのを売っている。私等の一行もそれを喰って力を得た。」「唐饅頭という飴を餡にした下等な菓子が名物であった。菓子好きの私は前夜も朝もそれを沢山喰べた。」という調子で、スイーツのエピソードであっても武士っぽく威張っているのが愉快です。

TITLE ムーン・パレス
AUTHOR ポール・オースター
投稿者 椎名登尋さん
紹介者
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ひとこと

幽体離脱を経験した知人がいる。
札幌の安アパートで天井を向いて考え事をしていた。ふと気づくと、天井がだんだん近づいてくる。ぶつかる、と顔を覆った瞬間、自分の体は天井をすりぬけ、どんどん、どんどん上にあがっていく。
そら高くあがっていき、大通り公園のはるか上から、あの時計塔を見下ろしたと
本人によれば、眠って夢をみていた、というわけではないらしい。はっきりとした、ありありとしたヴィジョンだった。
おそらく離人症という診断名がつくのかもしれないこの出来事について会社で話していたら、「わたしも似たようなことよくあります」と言い出したひとがいた。会社で事務作業をしていると、ときどき、自分が「どんどん遠くにはなれていく」ような気がして、自分がどこにいるかわからなくなるのだと。
ぼくはそういう経験がないけれど、おそらくそれは怖ろしいほどの孤独の経験に違いない。
では、「遠くにいってしまった」自分を、自分の身体に、今の場所につなぎとめるものはあるのだろうか。あるとしたら、何だろうか。
そんなことを考えていて、ふとオースターの小説を思い出した。
思い出したといっても、どんな物語だったのか、ほとんど憶えていない。学生だった頃、4回は読んだはずなのに、なぜか憶えていない。
ただ、どこかに、こんな一節があったことははっきり憶えている。
「僕は崖から飛び降りた。そして、最後の最後の瞬間に、何かの手がすっと伸びて、僕を空中でつかまえてくれた。その何かを、僕はいま、愛と定義する。それだけが唯一、人の落下を止めてくれるのだ。それだけが唯一、引力の法則を無化する力を持っているのだ」
どんな話だったのかが気になるので、近いうちに5回目を読もうと思う。

TITLE サヨナライツカ
AUTHOR 辻 仁成
紹介者
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ひとこと

はじめに、文庫で読み、映画を見ました。映画を見たので、もう一回読みました。ストーリー展開は、どこかで、読んだ感じです。(フランス文学系か?)
作中、手紙はとてもよく構成されています。(流石、辻さん!)
映画は個人的に、素晴らしいと、高く評価しています。西島と石田の演技力と美術(舞台)制作が光ります。展開は原作と少し違った所あり。映画の方が良いと思っています。後半で、西島が、飛行機で写真を見るシーン何ともいえません。
人の人生って、こんなこともあるのかと、いや、ありそうだと。(映画)エンディングで、社長室から主題歌に移るシーンも含みがあって考えさせられました。
次は、モームとコンラッドを読んで見ようと思う作品です。(何か映画評が多くなりすみません。)

TITLE やし酒飲み
AUTHOR チュツオーラ、土屋哲訳
投稿者 久しぶりに歯切れの悪いクロマニョンさん
紹介者
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ひとこと

読書会で取り上げいただき、本当に感謝しています。当日は、とても盛り上がり、楽しい会だったと記憶しています。ありがとうございます。
その後も数回読みました。本当におもしろく、不思議な魅力があります。後半にでてくる「問い」を解いてみろと、何人かの天才にも話してみたものの全く回答なし。
(読んでいないか。)恐らく、解なし、でしょう。実は、この解説を書くのが夢の1つです。

TITLE こころ
AUTHOR 夏目漱石
投稿者 準備不足のピテカントロプス、プスさん
紹介者
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ひとこと

二回と言わず、何回でも。
仏文学の西永先生も5回以上読んだと公表。何年か前、姜さんはNHKの番組で熱く語っていた作品です。申し分全くありません。
話の展開で、手紙が、鍵になっています。LINE時代の現在、何とも奥行きあり、深いお話になります。
手紙と言えば、辻仁成「サヨナライツカ」がありますが、ツールとしての使い方に大きな違いがあります。
(どちらが優れているということではありません。)
ソンタグが、「サタンタンゴ」を見て、残りの人生に毎年見る映画といいましたが、私は、「こころ」を、毎年読んで、人生を終わらせたいと思います。
乃木将軍の境地が少しは理解できるでしょうか?