TITLE | たのしいムーミン一家(講談社青い鳥文庫) |
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AUTHOR | トーベ・ヤンソン |
DATE | 2014年3月29日(土) 14:00-17:00 |
PLACE | 桜美林大学四谷キャンパス3F |
FEE | 500円 |
NOTE | 開催前にお花見ランチ会、終了後に二次会(中華料理)を開催しました。(自由参加) |
長い冬眠からさめたムーミン谷の愛すべきなかまたちが、海べりの山の頂上で、黒いぼうしを見つけたところから、次々にふしぎな事件にまきこまれていく。全七章からなる連作形式の長編小説。子供からの大人からも愛される世界的なファンタジーの傑作とされています。
おまけ:ムーミン公式サイト
トーベ・ヤンソン
1914年フィンランドのヘルシンキ生まれ。
父は彫刻家、母は画家という芸術一家で、幼いころから絵を描いたり詩や物語を作ったりした。
14歳のとき雑誌の子ども欄に自作の絵と詩が掲載され、15歳で雑誌の挿し絵画家としてデビュー。
1945年、ムーミンシリーズの1作目『小さなトロールと大きな洪水』が出版され、その後26年の間にシリーズは9作書かれた。
1954年からはイギリスの新聞「イブニング・ニューズ」にマンガ『ムーミントロール』を連載。トーベは6年間執筆し、あとの15年間は弟ラルスが引き継ぎ、コミックスは約60の言語に翻訳された。
トーベはムーミンシリーズだけでなく絵本、大人向けの小説、絵などたくさんの作品を生み出し多くの賞を受けた。
2001年6月27日、86歳で息をひきとる。生涯独身をとおした。
大人の集まりで児童書を読んでみたくて、熱心なファンの多いこの本を選んでみました。
北欧の作品だから寒い季節の間に読んでおいたら雰囲気がありそう。
春の季節に、のんびり本を読みながら参加者みんなでお喋りとお茶を楽しみたいです。
【今回選ばれなかった候補作品】
名作の児童文学は往々にしてそうなのかもしれませんが、この「ムーミン」も、一筋縄ではいかず、みなさん読むのに思ったより時間がかかったようです。いろいろな登場人物が出てきて、それぞれに物語が展開することも一因かもしれません。
だれを好きか言いあうことはこの物語を読む大きなたのしみですが、多くを持たず、定住せず、心におおきな憧れを抱くスナフキンはやっぱり多くの人が「カッコイイ!」と感じるのではないでしょうか。
スナフキンときたら、生まれたときからきている古シャツいちまいで、すみからすみまで幸福だったのです。(25ページ)
「もうじき、ぼくはまた旅にでるんだ」と心の中で思いました。でも、すぐというわけではありませんが。(111ページ)
このフレーズは、遠くに旅に出るまえの気持ちを言い当てていて、自分も旅に出たくなる、と感じた参加者がいらっしゃいました。
ずっと沖のほうに、ニョロニョロの島が、暗しょうや岩にかこまれて、ひっそりと横たわっていました。一年に一ど、ニョロニョロという小さいおばけたちが、世界じゅうをあらしにでかけるまえに、この島にあつまるのです。(91ページ)
ニョロニョロを神話的に描いている美しい場面です。ニョロニョロは、「一年に一ど」世界を「あらす」、つまり災いをもたらす存在です。夏至の時期に現れ、しかも気圧計に群がり、電気を帯びているというところから、ニョロニョロとは台風を象徴しているように読めます。でも、なんであんな形なのでしょうね。
もうひとつ、あらしに関連した部分が出てきます。
「あらしがかわりになにもかももってきてくれたんじゃないかな。コーヒーをのんだら、浜べをひとまわりして、波にうちあげられたものを、しらべてみようよ。」(122ページ)
嵐のあとに、家がボロボロに壊れてしまってみんなしょんぼりしたところで、お父さんが言うセリフです。自然の脅威は、破壊をもたらすと同時に、思わぬ富やできごとや再生をももたらしてくれます。作者は、こういう嵐を多く経験しているのでしょうか。自然に対する単純でないまなざしを感じられる部分です。そんな大きな自然に包まれて、ムーミンたちは空を見つめます。
東の空がしらみそめました。ぞくぞくするほどひえてきました。(116ページ)
荒々しい自然に包まれているだけでなく、ムーミンたちの世界は、妖怪にも取り囲まれています。でもそれは、必ずしも怖いことというわけではなく、むしろどこか優しささえ感じさせます。
木のかげからは、きらきら光る小さい目が、じっとこちらを見つめていました。おまけに、土の上からも、えだのあいだからも、しきりにだれかが声をかけるのでした。
「いいお晩だねえ。」
ムーミントロールのすぐうしろで、またもや、なにかの声がしました。
「ほんとにね。」
ムーミントロールが、勇気をだしてへんじをすると、なにかの小さいかげが、こそこそとそばをかすめて、やみの中にきえていくのでした。(72ページ)
ムーミンは、どうもいじめっ子のような残酷でいたずらなところがあります。
「ありじごくなんだ。すばらしくおこってる、ほんもののありじごくを、ぼくらはつかまえたんだぜ。」(59ページ)
もどってきたときには、きいちごのジュースをパパにわたして、こういいました。
「パパ、ちょっとこれを、のんでみてよ。」(89ページ)
89ページのくだりは、川の水からできた得体の知れないジュースを父親に飲ませるシーンです。そんな危なっかしいもの飲ませるのか、とちょっとびっくりします。 ムーミンにかぎらず、アニメのイメージからすると、原作のムーミンたちはかなり性格が悪いようにみえます。子どもの無邪気な残酷さを想像させて、そこに説教臭のない楽しさがあります。
「ひでえおっさんだ。もう、おれのさかなのめかたがはかれないじゃないか。」(178ページ)
そんななかでも、ムーミンママの無条件の愛情は、とてもほっとするものを感じます。
「ね、何がおこったって、わたしにはお前が見わけられたでしょ。」(51ページ)
不気味な異形の姿に変わってしまった(このシーン、さし絵が怖くてすてきです)ムーミンを見て、みんながさんざやっつけるシーンですが、一人ママだけが、きちんと自分の息子であることを見抜きます。母親の無限の愛を感じさせる場面です。
「いいですとも。そして、すこしきげんをなおしてからかえってきてね。」(140ページ)
ムーミンママは、ちょっと距離を置いたところからムーミンを見ることができています。ある意味、大人の目線ですが、一方でおかあさんってもっと必死になっちゃうものじゃないか、という意見もでました。
また、スノークのおじょうさんとムーミンは、ほのかに恋人関係のようなのですが、ふたり(?)の間は、なんだかなまめかしくて、どきりとさせられます。
ムーミントロールは、とても男らしい気持ちになって(ぼくは、どんなことがあっても、この人をまもるぞ)と、心の中でちかいました。(79ページ)
(みんながそのしなものに感心したら、私はそれを、ムーミントロールにやるんだわ。)(130ページ)
おじょうさんが褒めた木彫りの女神像をムーミンがボートの舳先にとりつけて賛美すると、今度はおじょうさん、嫉妬から機嫌をそこねてしまう、という場面もあります。おじょうさんのご機嫌をとるためにした行動なのに、雲行きが怪しくなるとムーミンは慌てて女神像をけなし始めます。このあたり、なんだか生臭いリアりティがあって滑稽です。
この物語には、どこかかすかに暗い影がただよっています。それは、たとえばムーミンパパのこんな描写にあらわれています。唐突に(という印象で)語りだされるこのくだりは、何なのでしょうか。いったいムーミンパパはどうして、このような心の空白を抱えているのでしょうか。この巻ではくわしく語られることがありません。
ムーミンパパは、ふつうの子どもとはすこしちがっていて、だれにも愛してもらえなかったのでした。大きくなってからも、おなじことでした。あらゆる意味で、おそろしい日々をおくってきたのです。(168ページ)
「いつもおばさんから相続した服を着て」いて、顔かたちもちょっとおばさんみたいなヘムレンさんも、妙にネガティブな暗さを抱えています。
「『すべてが役にたつことについて』だって?こりゃ、どうしたことだ。わしのもっていた本は、『すべてがむだであることについて』だったのに。」(244ページ)
二次会では、レズビアンともいわれた作者のなかにある、暗い側面が投影されている、といった説も出されました。そうかもしれません。
しかし、この本が暗さを超えて輝いているのは、最後に用意されたすてきなクライマックスのおかげが大きいでしょう。
どんなに飛行おにはうれしがっていたことでしょう。あの人のぼうしから長くつまで、それこそよろこびがあふれていたのです。(251ページ)
そのとき飛行おにが、さっとマントをひとふりしました。と、たちまちかなしみは、ムーミントロールの心から、とびさっていきました。スナフキンにたいするあこがれは、またあえる日をまちうける心にかわってしまったのです。(243ページ)
すべてのかなしみは癒され、だれもが幸せになれる、そんな瞬間が人生には必ず訪れるんだ、という肯定的な信頼を与えることが、児童文学のだいじな仕事かもしれませんね。どこからかこだまするスナフキンのはるかな歌声で、この物語は閉じられます。
それをきくと、ムーミントロールには、どんなにじぶんの友だちが、うきうきした気持ちでいるか、よくわかりました。(211ページ)
今回はちょうど桜の季節。読書会の前には、四谷の河原でお弁当とシャンパンを片手にお花見を楽しみました。今回も、ツイッターを見て、新しく二人の方が参加してくださいました。
ご興味のある方はどなたもお気軽にご参加ください!
【お菓子】
焼き菓子やをぜ YAOZE
【紅茶】
TEAPOND